北摂総合病院

大阪平野の北東、高槻市において1965年から地域に根ざした医療を実践されている北摂総合病院。この北摂総合病院に屋上庭園が設けられた目的やその背景について、ご設計を手掛けられた株式会社大林組 建築設計部 副主査の増田 徹さんにお話を伺いました。インタビューは東邦レオ株式会社 環境開発事業部の山口 薫です。

山口

北摂総合病院

宜しくお願いいたします。今回の北摂総合病院ですが、2006年3月に竣工を迎え、5月から新病院がオープンしているとお伺いしています。増田さんはいつ頃から、業務に携われていたのでしょうか?


増田さん

病院の移転を検討されるようになったのは2000年頃です。設計提案コンペにより、私どもを選んでいただきました。施主の中では、当時からフィーリング、建設のパートナーとして同じ目的意識を持った会社・人を選びたいという意向があったそうです。私が担当することになったのは、設計活動が本格的になった2003年でした。

山口

施設設計に当たって、どのようなコンセプトを持たれたのでしょうか?

増田さん

院長先生がアメリカに留学されたご経験があり、アメリカのような病院をつくりたいと当初から言われていました。アメリカのような病院というのは、「患者さんが中心の、あたたかく、安らげる空間をつくりたい」という意味合いだと思っています。そのようなイメージを実現するため、建築設計だけでなく、インテリア・家具・アートを一体として、やすらぎと安心感を提供できるような明るく開放的な空間を提案しました。

山口

最近、高層階がセットバックしている病院をよく見かけますが、三角形の形状は大変印象的ですね。この形状はデザイン面が大きな要素なのでしょうか?

増田さん

北摂総合病院

このような病棟の配置はアメリカで最初に出てきたものです。確かにデザイン的にユニークといった要素もありますが、北側の住宅地に落ちる日影の影響を極力軽減できることや、室内においては、中心に位置するナースステーションからビューが利くといった機能的なメリットも同時に考えています。


山口

三角形の病棟によって、低層棟に2つに分かれた大きな屋上空間が生まれました。この屋上にどのような背景から庭園が企画されたのでしょうか?

増田さん

設計当初は屋上の植栽については考慮していなかったのですが、設計が進む中で、「こんな立派な屋上があるのなら、患者さんの癒しの空間として庭園として利用してみては?」と施主から打診があり、山口さんにも協力をいただきながら図面を提案しました。ただ屋上庭園の話があったのが着工の直前で、構造設計もほぼ終わっており、屋上庭園用に別途十分な荷重を確保することが出来ませんでした。そのため、既存改修で屋上緑化するのとほぼ同じ条件となりました。

山口

コンセプトの異なる2つの屋上緑化

東邦レオでは、庭園における設計協力と施工を担当させていただきました。
いただいた条件から、西側の屋上空間は「憩う庭」(人が入れる庭)、東側には「眺める庭」(病室から鑑賞する庭)という明確なコンセプトが生まれました。また、二つの庭園の配置から、三角形の病棟を挟んでシンメトリー(線対称)になることを意識し、直線的な建物と対照的な曲線を使ったグラフィックデザインを提案させていただきました。「憩う庭」では、柵の機能も兼ね備えたベンチでウッドデッキを囲み、芝生や花壇、コンテナ植栽を用いて、患者さん同士やお見舞いの方、職員の方々が香りや花を楽しみながら憩える空間を目指しました。一方「眺める庭」では、病室からだけでなく、近隣のマンションからも景観を楽しんでいただけるよう配慮した庭園となっています。


増田さん

患者さんの安らぎの空間は、部屋の中だけでは限界があり、外に出て、土や花に触れ、広い空間を味わうというのは大変喜ばれると思います。アートやインテリアといったしつらえだけでは補えない部分がありますね。屋上緑化をすることでヒートアイランド対策といった温熱環境効果もありますが、今回は患者さんが見て楽しめて、くつろげるような空間になったことがとても大きいと思います。

山口

R-パレットシステム

今回は荷重が1m2当り60kg以下という、かなり厳しい条件でした。これまで、こういった条件では芝生かセダムによる薄層緑化を行なうことが一般的でした。ここでも、当初「眺める庭」にはセダムを使ったシステムを提案していました。しかし、ちょうどその時期に開発された「R−パレットシステム」を提案したところ、施主の皆様も花や緑のバリエーションを楽しめるのなら是非!ということでご採用いただくことになりました。


増田さん

薄層緑化というと今までセダムのイメージしかありませんでしたが、植栽自体のボリューム感に乏しいため、病院では喜ばれないかもしれませんね。今回採用したシステムは、緑のボリューム感や花が楽しめるとあって設計関係者の見学会でも、こんな方法で緑化ができるのかという声がありました。花が楽しめるというのは、医療施設にはあっていると思いますね。

山口

荷重以外にもデザイン上の制約はあったのでしょうか?

増田さん

「眺める庭」の柱

後からの設計という部分でいくつか制限がありました。特に気になったところは見切り材の収まりでしょうか?「眺める庭」では、柱の配置や防水納まりの関係などから建物際(病室側)から1m以上はなれたところで屋上庭園が計画されたので、金属の見切りがどうしても病室からの視界に入ってしまいます。また「憩う庭」では、夏場に木陰を提供できるように高木を取り入れたかったのですが、荷重制限上難しく、中木のオリーブを取り入れていただきました。可能であれば、屋上庭園への入り口の間口をもっと大きくとり、例えばベットやストレッチャーのままでも、患者さんに屋上空間を楽しんでいただけるような提案をしたかったですね。

山口

様々な選択肢の中からで、その空間に最も適したデザインを施していくのは、大変労力がいることだと思います。増田さんが今回設計を手掛ける上で、一番注力されたのはどんなことですか?

増田さん

そうですね。商業施設や一般の企業ビル以上に、医療施設の場合は、実際に使われる方々との密接なコミュニケーションがとても大事だと思います。病院管理部門だけでなく、各部門の医師や看護師の方々とも、打合せを重ねることで一歩一歩進めていきました。感覚は住宅の設計に近いかもしれません。また今回は実施設計に入る前に2年間の助走期間があり、その間に病院スタッフの方々とご一緒に他の病院を視察することもできました。これは病院が目指すものを、私たちも共有できる大変重要な時間だったと思います。

山口

大阪でも、大規模施設において屋上緑化の義務づけが始まりました。これから屋上庭園の計画に関わる方々はより増えていきますね。最後になりますが、この記事を見られている読者へ一言お願いします。

増田さん

「条例で屋上緑化をやらないといけないから」という消極的な理由ではなく、屋上庭園で何をやりたいのか、ということを頭において空間を積極的に使っていくことが重要と考えます。今回は荷重の制限がありましたので、限られた条件の中での屋上緑化でしたが、屋上に足湯を設置した医療施設などもあります。その病院ならではの、求められる機能を建築の立場からサポートできたらと考えています。例えば、園芸療法など、リハビリテーション効果があるといわれていますが、専門の先生と打ち合わせをしながら、アイデアを出し合えれば、色々とできることや方法はあると思いますね。

山口

「その空間がどう使われるか」といった視点に重点をおいてご設計される姿は、大変勉強になりました。私たちも、自然に人が集い癒される緑空間が創れるように、ソフトの面でもハードの面でも努力していきたいと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(取材日 2006年4月25日)

  • 北摂総合病院・取材日記
  • 北摂総合病院に採用された屋上緑化技術について

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