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屋上緑化実践事例・取材日記
「大阪ガス実験集合住宅NEXT21・屋上庭園」の巻
NEXT21の景観を決定づけている緑の存在。これら住棟の緑地を計画・設計された「株式会社アトリエイーツー」の江木剛吉さん、江木博子さんに執筆して頂きました。
【設計者としてのNEXT21】
21世紀に入り、地球温暖化を巡る論議は一層活発である。論議は抽象的な段階から具体的な方策や行動に移りつつある。このような社会的な背景の中で、NEXT21の取り組みや成果が評価されている。建築緑化についても、都市におけるヒートアイランドの抑止効果を得ることのできる具体的成果として、一定の評価を得ていることは設計に係わった者として、何ものにも代えがたい喜びである。
NEXT21の計画・設計が開始されたとき、私たちは独立して間もない頃であり、建設委員会からの緑地環境に対する課題と期待は過大に感じたものである。当時、地球温暖化だけでなく生物の多様性の現象、酸性雨、海洋汚染、砂漠化等の問題が深刻な様相を呈し始めた時期であった。設計者としては、1992年6月に国連環境開発会議で調印された「生物の多様性保全条約」に至る経緯が最も気に掛かっていた。それは、建物緑化が省エネルギー設備装置のようなものとしてだけに捉えられることに対しての危機感であり、反発でもあった。要するに、身近な生物とともに仲良く暮らすこととはどういう事なのかを、具体的に設計として示したかったのである。
都市環境の中で、生物保全についてどのような考え方や取り組みがあるか、当時の野鳥の会の市田さんや武蔵野美術大学の立花先生と議論を深めつつ、計画を詰めていった。しかし具体的にプランとして描く段階に近づいて、「都市部では簡単に生物と仲良くなること」が出来ないことが分かってきた。快適な緑に囲まれた生活といっても、毛虫の大発生や鳥の糞、日々の植物の世話、思わぬ落葉の掃除等と、当たり前に大変なことがたくさんあり、頭を悩ましたものである。こんなとき、ふと、宮崎駿のアニメ「天空の城ラピュタ」が頭をかすめた。そして、だんだん大きくふくらんできたのである。
天空の城ラピュタ」は、中途半端に緑と調和した快適な暮らしのイメージをぶっ飛ばして、近代のシステムを緑が飲み込んで成長するようなNEXT21でよいのではないか、と語りかけていたように思えた。そして、その姿をイメージスケッチで示して、計画・設計を進めていったのである。この点はやや我田引水ぎみであると思うのだが。
このような思い切った将来像を描くことによって、1階の鬱蒼とした池と流れのあるビオトープ、屋上の野性的な緑のイメージ、各住戸周りの個性的な花と緑を、野鳥や蝶等の昆虫に関連づけて設計を具体化していった記憶がある。
都市において、このような建物緑化が当たり前になる時代は近いと感じていたので、建設工法と緑化工法を近代的工法として、システムバランスをどのようにとるかということを課題として設定していた。折りしも、人工土壌や地下支柱、コンテナ樹木などのような建物緑化に適した合理的な材料や工法が開発されつつあった。樹木については、生物であり分からない事柄が多く、利用するのは避けたが、できるだけ新しい材料等を用いてシステムとして組み立てられるような設計になるようにした。当時は、詳細な点を詰めると不安もたくさんあり大変頭を悩ましたが、「実験住宅」という言葉が冒険的な設計へと駆り立て、委員会の先生や建築設計者の励ましもあり、終わってみれば、なんとか説明可能な設計になったとほっとしたものであった。
竣工当時の姿を見て、「天空の城ラピュタ」のイメージとは遠い印象を持たれた人々が多かった、聴かれることの中で「何年たてば立派な緑になるのですか・・・」が最も多かった。その質問には「5年という第1期の実験が終わる頃でしょう・・・」と答えていた。多くの人たちが「5年か・・・」というため息混じりの声で私に返していたのを覚えている。
今でも、時折NEXT21を見に行く。そして、事務所の壁に掛かっている天空の城ラピュタに似せた「空に浮かぶNEXT21」と頭の中で重ね合わせて単なる屋上緑化ではなく、住む人の快適環境とは何か、生物との関わりとは何か、美しい庭園的環境と豊かな生物層のバランスについて考えている。そしてこれからも考え続けながら、設計活動に携わっていこうと思っている。
E2 江木剛吉・江木博子