訪れる人々に、くつろぎの空間を提供している名脇役の屋上庭園。この料亭に屋上庭園をつくられた意図、現在の状況について株式会社富吉 取締役社長の石井一郎さんと奥さまにお話を伺いました。インタビューは、東邦レオ株式会社 前田 正明です。
- 前田
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宜しくお願いします。この場所に立つと、12年前に施工させて頂いた頃の状況が大変鮮明に浮かんできます。当時は、今のように屋上緑化がまだ一般的ではありませんでした。そんな時代の中で、積極的にこの屋上を庭園にしようと思われたきっかけは、どのようなものだったのですか?
- 石井さん
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はい。ここはもともとコンクリートが広がる、何も使われていないスペースでした。ほぼ真西に当っているので西日の照り返しが強く、夕方はコンクリートに面している3階の部屋が特にクーラーをつけても全然効かない状況で困っていました。そんなとき、偶然テレビで屋上の緑化を特集している番組を見ました。「こんな風に屋上にお庭が出来たら」と思い、建物を設計して頂いた三創建築設計事務所の大森先生に、ご相談したのがきっかけです。そこで初めて、建物に負担が少ない軽い土が開発されているということを知りました。
- 前田
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ちょうど私どもが、自然の土の1/3と超軽量型の人工土壌「αベース」を開発し、それが普及しはじめた頃でした。このような人工土壌をはじめ、緑化防水、地下支柱、自動散水などトータルな屋上緑化システムも開発され、既存施設における屋上緑化の可能性が大変広がりはじめていました。ただこの建物で屋上緑化をするには、防水面と荷重面での問題がありましたね。
- 石井さん
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階下は大広間で、中央部分に柱がなく、
荷重を掛けにくい構造。建物が出来てすでに17年が経過していたことや、下の階が大広間で、柱が中央部分にないことで、土や植物の重さに耐えられないということが問題でした。
- 前田
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解決方法として、防水のやり変えにともない撤去する押えコンクリートを改修後は使わないことで、緑化部分の荷重を確保するという、当時としてはかなり思い切った手段が取られました。柱のある外周部分に中高木を植え、柱がない部分は砂利敷きとタマリュウを敷き、全体的に奥行き感のある日本庭園になったと思います。
屋上庭園が出来て、どのような変化がありましたか?
- 石井さん
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そうですね。3階の部屋は、屋上庭園が出来てから、照り返しが少なくなったのか、暑さはとても和らぐようになりました。クーラーをつけても、良く効くようになったと思います。それだけではなく、3階の部屋から見えるこの景色を大変気に入られ、何度も足を運んで頂ける方々もいらっしゃいます。それがとてもうれしいですね。
- 奥さん
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お客様から「せっかくだから、泊まっていきたいな。お風呂はないの?」と言われたこともあります。お庭が出来てから、かえって3階の部屋を使うケースが増えてしまって、ここだけ早く傷んでしまわないか心配なぐらいです。
- 前田
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屋上庭園が西日対策だけでなく、具体的な集客効果に結びついているということをお聞きして、大変うれしくおもいます。植物たちは、この12年間にどう変化しましたか?
- 奥さん
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ええ。あの頃植えて頂いた木は、みんな元気に育っていますよ。
- 石井さん
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周囲に河原があるからか、この屋上は少し風が強く吹きます。植えて頂いた高木は最初、風にあおられて斜めになりがちでしたが、大きくなるととともに、まっすぐになりました。どこから来たのか、アリの巣やトンボも来ます。自然はすごいと思います。
- 前田
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現在はどのような手入れをされていますか?
- 石井さん
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年に1度か2度、業者の方に剪定などの手入れをして頂いています。水まきについては、自動のタイマーを利用していますので、そんなに手入れが大変だとは思いません。ただ今後木が大きくなると、重みで建物に影響があるのではと心配な部分があります。
- 前田
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もともと樹木が重いのは、根のまわりについている「土」なんです。幹が少々太くなったり、高くなったりしても、重さ的には大きな影響がありませんよ。今回拝見させて頂いた感じでは、問題ないと思います。
- 石井さん
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それを聞いて安心です。あと10年くらいは、このまま様子を見ようかと思います。
- 前田
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貴重なおはなしをどうもありがとうございました。今後とも宜しくお願い致します。